【暁月6.0後】名も知らぬ、世界の向こうのあなたへ

暁月6.0クリア後 竜騎士70クエの内容を含みます
暁に感謝のお手紙を書いたリーンちゃんの話です
プレイヤーがまだ6.5をやっていないのでメインと齟齬があるかもしれません

 

「お待たせしました、リーン」
「いいえ! 私も今来たばかりなんです」

 クリスタリウムのエーテライト・プラザに降り立ったニニシャさんに、私は駆け寄った。今日のニニシャさんはいつもの真っ赤な帽子ではなく、麦わら帽子をかぶっている。それも、花飾りがめいっぱいつけられた、花かんむりのような、とても綺麗な帽子だ。
 ニニシャさんが鞄の中から封筒の束を取り出す。丁寧な手付きに、汚れないよう気を遣って運んできたんだなと笑顔が浮かぶ。いつも大冒険をしている彼女は、鞄の中だって様々な便利道具でいっぱいなんだ。

 少し前に第一世界を訪れたニニシャさんに、私は手紙を預けた。私にとって大事な大事な、『暁』の仲間……家族たちへの手紙。みんなが終末を退けてくれたことを知ってから、ずっとみんなにありがとうを伝えたくて、何度も書いては消しながら書きためてきた。
 今日は、そのお返事を渡してもらうことになっていた。本当は届けてもらうだけで良かった。けれど、手紙を預かったニニシャさんが「絶対に全員に返事を書かせますから待っていてください」と言ってにっこり笑って胸を叩いたので、思わず頷いてしまった。
 アルフィノさんにアリゼーさん。水晶公の分には、暁の仲間であるタタルさんとクルルさんも一筆添えてくれたみたいだ。ウリエンジェはガイアにも手紙を書いてくれている。サンクレッドからの手紙を渡される時に、私からの手紙を受け取ったらもう泣いていた、と聞かされて驚いて大きな声を出してしまった。ニニシャさんはサンクレッドが泣いていたことを内緒にしようと思ったけれど、ウリエンジェとヤ・シュトラさんが是非伝えてほしいと言ったみたい。封筒に触れるだけで、みんなが元気でいることがわかって、とてもあたたかい気持ちになった。

「最後に、これはヤ・シュトラから。それと、伝言を預かっています」
「伝言?」
「ええと、『例の件だけど、もう渡して、返事も同封したわ』と、言っていました」

 私の心臓がどきりと跳ねた。もしかして……。大急ぎでヤ・シュトラさんからの封筒を開ける。そこには、彼女からの手紙と、大きめの栞が入っていた。
 ……届いたんだ。そして、返事もくれたんだ。

「リーン……?」
「あっ、えっと、実は、ヤ・シュトラさんに、ちょっと内緒の頼み事を……」
「内緒の頼み事?」
「い、いえ! あの、魔法のこととか、色々聞きたくて、それで!」

 慌てだした私の様子をニニシャさんは不思議そうに見ていたが、そうですか、と言って頷いた。たぶん釈然としていないけれど、無理に聞き出すつもりはないんだろう。そんな様子のニニシャさんは、本当に優しい。これがガイアだったら、質問攻めになっているに違いない。それもそれで、楽しいのだけれど。
 私はヤ・シュトラさんに宛てた手紙の中に、とある人への手紙を同封し、この手紙をどうすれば届けられるか彼女に相談した。
 宛先は、名前も、性別も、姿も知らない、原初世界の人だ。

 テンペストにやってきて、オンド族のお手伝いをしていた時のこと。光に蝕まれたニニシャさんが急に苦しみだし、その場に座り込んだ。光を必死に抑え込みながら、今にも涙がこぼれそうな私を見て、ニニシャさんは微笑んで――冷や汗だらけで、身体も震えているのに――こう言った。

(やりたいこともやるべきことも多すぎます。だからわたしは、こんな所で終われません)

 私よりもニニシャさんの方がずっとずっとつらいはずなのに。私は苦しくて、その言葉を鸚鵡返しにすることしかできなかった。すると、ニニシャさんは、自分のやりたいことを一つ一つ話しだした。冒険者の友達と食事の約束をしていること。品種改良されたお花の栽培を試してみたいこと。冒険者ギルドでハーブティーを飲みたいこと。真っ白くて美しくて優しい、お母さんのような竜がいて、その声を聞きにいきたいこと。戦争も収まっていないから、力になりたい人がたくさんいること。弓や槍を教えてくれたお師匠たちにご挨拶しにいきたいこと。
 息も絶え絶えに、それでも確かな言葉で、たくさんの未来をニニシャさんは語った。そして、少しだけ間をおいて、こう言った。

(また、槍を並べて一緒に戦おうと言ってくれた人がいました。その約束も、まだ果たせていません。だから、帰らないと)

 光を蓄積したことによる苦しみが強すぎて、ニニシャさんはその時自分がどんな話をしたか覚えていないようだった。
 けれど、私にはその約束に込められたニニシャさんの思いがとても強く感じ取れて。
 だから、その人にお礼を伝えたかった。ニニシャさんの魂を引き止めてくれてありがとうと、あなたが意図したかどうかは別として、支えになってくれてありがとうと。私も世界の向こうから、ニニシャさんとみんなと、そしてあなたにたくさん幸福があることをずっと信じていると。私はそんな言葉を手紙に記した。
 ニニシャさんのお知り合いなのだから直接ニニシャさんに言うべきことなのに、なぜだか気が咎めてしまって、ヤ・シュトラさんを頼ることを決意した。
 ヤ・シュトラさんからのお返事に軽く目を通したけれど、彼女は遠回りな方法を選んだ私を責めたりせず、すぐに私の探し人を見つけ出して手紙を渡してくれた。そして、返事代わりの栞を受け取ったみたいだった。
 言葉が書いていなくても、栞を見るだけできっと優しい人なのだと思った。押し花で作られた栞。昼間に天の高いところにいる太陽のように、あるいは優しい夜に輝く満月のように、きれいな、まばゆく黄色い花。
 まるでニニシャさんみたいだな、となんとなく思った。

「みんなの分、無事に届けられて良かったです」
「私のほうこそ、本当にありがとうございます……!」
「時間は大丈夫ですか? ガイアを待たせているのでは?」
「あ、はい! また今度、一緒にお食事しましょう!」
「はい、楽しみにしています」

 そう言ってニニシャさんが微笑んだ。彼女がこんな風に笑ってくれることがとても幸福だなと私は思う。きっと、世界の向こうのみんなも同じだ。
 私はニニシャさんに一礼してから背を向けて、全ての封筒をしっかり握りしめてランディングに向かって走り出す。これから、ユールモアで、ガイアとチャイご夫妻とお茶会だ。わくわくに、胸が弾む。走りながら、この気持ちがずっと続く世界にしようと胸に誓った。そして、そんな世界が続くことを強く、強く信じた。

 後日、ラザハンの桑畑で働くニニシャに、人形の姿で見回り途中のヴリトラが話しかけてきた。
 とある用件のために、錬金術師たちに頼んで花を加工させたのだが、その花の花言葉を知っているか、と。錬金術師たちが何やら花言葉のことを話していたが、自分が聞いても頑なに教えてもらえないと。
 見せられたその花には多くの花言葉があった。ニニシャは迷いつつ、思いつく全てを答えた。
 友情。消息。復讐。幸せを掴む。私は燃えている。

 それから――『信じる者の幸福』。

 

 

漆黒5.0終盤の時に光を溜め込んでヘロヘロのフラフラだった自機を支えたものはたくさんあって、そのうちの一つが竜70クエの最後に言われた台詞だったらいいなと思って書きました。
栞に使われた花はイエローアイリス(黄菖蒲)です。どこのジャンルに行ってもスパイラルを擦り続けるオタクが私だ
時間が足りなくて書ききれなかったんですが、サンクレッドが手紙のお返事と一緒に本をリーンちゃんにプレゼントしたのを偶然知ったニャンさんが、じゃあ栞でもつけてやればいいかって思ってこういうことになった感じです。もしかしたらその本は蒼天のイシュガルドかもしれません。
読んでくださった方ありがとうございます!

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