LV90クエ「暁月のフィナーレ」のところ
スタッフロールとラストシーンの間にこんなことがあったらいいなという話です
※ラハくんが限界オタクになっています
*
ラグナロクがオールド・シャーレアンに帰還した。世界から終末は退けられた。
喜びに湧いた人々は、元凶を祓った暁の血盟、そしてその中核を成す光の戦士を大いに称賛した。そしてかの戦士もまた、迎えた人々に心からの称賛の言葉を返し――ている途中で、動力が切れた魔法人形さながらにばったりと倒れた。死闘で襤褸切れになった身で無理を通したのか、あるいはアーテリスの大地を踏んだことで戦いに起因する昂りが急におさまったのか。街が混乱する中、若きララフェル族の女傑は暁の仲間たちに担がれ、あれよあれよとバルデシオン分館に担ぎ込まれたのだった。
殆どの傷は塞がっており、今後命に関わる事態にはならないとのことだ。しかし出血と衰弱が甚だしく、体内のエーテルの巡りが乱れ、免疫力が落ちているらしい。光の戦士はかれこれ3日ほど、発熱と解熱を繰り返しながら、眠ったり目を覚ましたりしている。暁の面々は交代でその付き添いをしていた。今まさに、付き添いを前任者と交代するために彼女の部屋の前で待機しているエスティニアンもその一人である。
遅い。
交代の時間はもう過ぎているにもかかわらず、前任者がいつまで経っても部屋から出てこない。まさかとは思うが、問題が起こっていたらよくないと、ノックもせずに扉を開け放った。
「……ああ、すまない……っ、その、これは……ッ」
光の戦士――ニニシャは熱が下がったようで、すやすやと眠っている。そしてその横で、前任者であるグ・ラハ・ティアが、赤い瞳からぼろぼろと大粒の涙を流していた。そんなことだろうとは思っていたが、想像していたものと寸分違わずの光景が目に入っては、流石にどっと力が抜ける。同時に、この状況にある程度の緊張感を抱いていたことを否が応でも自覚する。
「お前が泣くのを責めやしないさ。だがその調子だと、相棒がまた目を覚ます前に部屋が水没するぞ?」
グ・ラハの隣に腰掛けて軽く背中を叩いてやると、口から絞められたハンサの断末魔のような呻き声がまろび出た。笑いと涙が一緒に出てしまったらしい。つくづく愉快な青年だ。グ・ラハが号泣していても、不思議と「メソメソするな」と叱り飛ばす気が起こらない。老練な指導者の顔をしたかと思えば、全身で感情を爆発させる姿は、なぜだか見ていて飽きがこない。
「ニニシャ、少しだけ目を覚ましてたんだ。それで、また、みんな無事か、って……」
予め泣くと思って用意していたのだろうか。大きめのフェイスタオルでグ・ラハは顔を覆い、そして乱雑に拭った。
天の果てからの帰路。瀕死の状態でラグナロクに転送されて、必死の治療で目を覚ましたニニシャ。眩しさに目を細め、それでも仲間たち一人ひとりをしっかり見据えて、一番最初に微かな声で呟いた。
……みんな、無事、ですか……?
その言葉に対して真っ先に、あんたが一番無事じゃない、と口火を切り、そのまま涙で言葉を詰まらせたのがグ・ラハだった。それがまたぶり返してきたらしい。
終焉を謳うものが起こした圧倒的な絶望の嵐、その前に自分たちは手も足も出なかった。為すすべもなく吹き飛ばされる仲間たちを見て、ニニシャは咄嗟の判断で強制転送ボタンを押し、自分一人がその場に残ることを選択した。
全方向から顰蹙を買うに違いないから言わないが、エスティニアンはニニシャの判断は的確だったと考えている。そうでなければすべては終焉を迎えていただろう。かと言って、隣で泣くグ・ラハを放っておくこともしたくない。
「いいことを教えてやろうか」
「……いいこと、って……?」
目を閉じて、今も――きっと、生涯忘れないであろう景色を思い返す。硝煙と血の臭いで息もまともにできない戦場。生気のない顔で、気を失ったまま動かないエオルゼアの英雄。肩に抱えた体のあまりに軽いこと。なんらかの呟きが鼓膜を叩き、彼女が目を覚ましたのかと思い、肩から降ろして顔が見えるように片腕に抱き直したそのとき聞こえた、あまりに微かな震える声。
(アリゼー……、アルフィノ、みんな……)
「ギムリトで倒れた時、自分が傷だらけだってのに譫言でアルフィノやアリゼーを呼んでいた。……相棒はそういう奴だ、諦めろ」
少しだけ間をおいて、魔物の唸り声もかくやとばかりの、地を這うような凄まじい嗚咽が聞こえてきた。グ・ラハは何やら色々と言っているが、まともな言葉にならず、何を言っているかほとんどわからない。面白いからと放置して何気なく耳を傾けていると、概ねこんなことを言っているようだった。
第八霊災を退けるためやむを得なかったとは言え、ニニシャにそこまでの負担を強いたことに対する申し訳無さ。彼女を生かすための行動で、彼女を苦しめてしまったやるせなさ。
それから。
「あんただって……オレの術の影響で倒れたニニシャを見て、どれだけ肝が冷えたことか……ッ」
まさかグ・ラハの悔恨が自分にまで飛び火するとは欠片も思っていなかったため、エスティニアンは思い切り面食らってしまった。初対面で真っ赤な瞳をきらめかせ、本物だ、と言われたあのときを思い出す。この青年は、子どものように無邪気なくせに、千里眼でも持つかのように多くのことを見通してくる。
こんな風に時折かけられる気遣いの言葉は、あれこれ世話焼きを繰り返すどこかの誰かたちのように押し付けがましくなく、丁度いい。無意識にその頭に手を乗せてしまったが、悪くない。第八霊災を退け、そして光の戦士を生かすため、命を捨てる覚悟をしたひとりの英傑。その髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜながら、言ってやった。
「いいから、顔でも洗ってこい。『水晶公』」
*
陽が傾くと、オールド・シャーレアンは急激に冷える。部屋の隅に積み上げてある掛け布団を一枚手にとる。眠るニニシャは少しばかり苦しそうに眉根を寄せていた。また熱が上がってきたらしい。
付き添いと言っても、魔法の扱いに長けた暁の賢人たちと比べると、できることは少ない。火照る額に特殊な冷却材入りのタオルを乗せてやることや、体が冷えないように掛け布団を増やしてやることくらいだ。もっとも、賢人たちが奔走する各地のお偉いへの報告やら取りまとめやらはさらにできないことなので、結果的にバルデシオン分館にとどまり、こうして眠る相棒の面倒を時々見てやっているのだが。
ニニシャが身じろぎする音がして視線を送ると、彼女は眠たそうな目で起き上がろうとしてはっとして止まる。自分が絶対安静の身であることを思い出したらしく、起き上がるのをやめてしっかりと布団の中におさまった。
「イシュガルドには……もう、行きましたか……?」
「いいや」
「……そうですか……。そのうち、会いに行ってくださいね……。アイメリク総長も、師範も、とても……心配していると、思うので……」
「……食いたいものはあるか?」
友と師の名を出され、居心地が悪くなる前に話題を変える。いつもは嫌がると知ってあまり余計な世話焼きをしないニニシャが、自らこんな話をするのは、発熱のせいだろうか。
「……アームラの実の……ラッシーが、飲みたいです……」
「わかった。そのうちイェドリマンで買ってくる」
「あのお店は……だめです……」
「どうしてだ」
「どうしてもです……」
緩慢な動きで、だが頑なにニニシャは首を横に振る。なぜそれほど固い意志で拒否するのかエスティニアンには全くわからなかったが、ラッシーはラザハンの都で仕入れてこようと考え直した。
完全に陽が落ちて、部屋が暗くなる。窓を閉めて、ベッドサイドのランプを灯して、部屋全体を見回してから、一度灯したランプを消した。ニニシャの部屋は特別、明かりが多い。部屋の向きこそ北だが、この部屋にはかつてバルデシオン委員会の研究に使われていたであろうクリスタルが、あちこちに山のように積んである。夜になるとそのクリスタルが淡く白い光を放つのだ。夜中の足元確認には困らないだろうが、消せない明かりが点在するこの部屋でよく眠れるものだとアリゼーが言っていたのを思い出す。冒険者になる前のニニシャは黒衣森でムーンキーパー族たちとともに行動していたため、昼行性と夜行性を自由に切り替えることも、環境を問わず眠れることも知っているが、言ったら面倒なことは明白なので何も言わなかった……のだが、結局アルフィノが全部ばらしてしまい――自分がそれを知っているということも含めて――結局はアリゼーに壮絶な顔で睨まれる羽目になった。
「……グ・ラハを……また、泣かせてしまいました……」
「すごかったぞ」
「すごかったですか……」
「ああ」
苦しげな息を一つ吐いて、ニニシャが目を閉じる。おそらく、熱のせいだけではないのだろう。あるいは、心も体とともに熱に浮かされているのか。
「……アリゼーも、泣かせてばかりで……みんなにも、あなたにも、心配ばかり……」
それはアルフィノを号泣させた俺に対する当てつけか、という言葉が脳裏をよぎったが、口にはしなかった。今のニニシャは、そんな悪い冗談で浮上できるような浅い場所にはいない。仲間たちに心配をかけたことにしか言及していないが、心に抱える思いはそれだけではあるまい。これまでの旅で失ったもの、成し遂げられなかったこと、味わった苦しみ、ひとりで歩いた絶望の道の記憶。そういうもので満ち溢れる、深いところにいるのだ。
だから、額に乗せたタオルを替えてやり、お互い様だろう、とだけ口にした。自分の言葉でニニシャが浮上できる距離など、彼女の身長分にも足らないだろうが、ないよりはましだ。
すると、ニニシャの手がゆっくりと伸びてきた。
「……起きたいのか?」
ニニシャはいいえ、と首を横に振ると、伸ばした手でエスティニアンの指先を握りしめた。力はほとんど籠もっていない。今にも滑り落ちそうなその手を、思わず握り返してしまい、少しばかりの後悔と気まずさが心の奥底で湧き上がった。
それでも、握り返した手を離すことはしなかった。
ニニシャは何度か深呼吸してから、途切れ途切れに、こう言った。
あなたと、ともに、戦いに行けたこと。わたしの、誇りです。
「――……」
覚えている。忘れるわけがない。かつて、イシュガルド・ランディングでニニシャにかけた言葉が、時を越えて自分の手元に還ってきた。
ニニシャの手に、僅かに力がこもる。気の所為かもしれないが、それに合わせて部屋のあちこちに置かれたクリスタルが、やわらかに光ったように思えた。
続く言葉は、ほとんど声には乗らなかったが、口の動きで何を言っているかは嫌というほど伝わった。
叶うなら、これからも。
それ以上、彼女の口は動かなかった。代わりに聞こえてきたのは、安らかな寝息だった。
「……完敗だ、相棒」
熱に浮かされた言葉でも、眠りに落ちる寸前の溶けゆく意識でも。
自分の体から竜の眼を引き剥がしたその手で、鎧も手袋もしていない素手を握られて。邪竜と共に消えようとした自分に生きてほしいと叫んだその声で、そんな風に言われてしまえば。
もはや、気ままな一人旅には戻れない。
それはとっくの昔にわかっていたことだ。なんなら、暁の面々が第一世界で奮戦している間、タタルとクルルに強引に契約を持ちかけられて、それを引き受けざるを得なかったその時から、予感はしていた。
それでも、ニニシャの言葉がとどめの一撃となったことに、違いはなかった。
「この槍を振るうことで、その願いに応えよう。構わんだろう。……ニーズヘッグ」
愛槍への呼びかけに、答えるものはない。ただ、夜の静寂が、その意思を穏やかに肯定していた。
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ちょっとCPっぽいというか、距離が近いやつを書こうと思って書きました。
飲み物の差し入れを持ってきて、後半のくだりを部屋の外で聞いてしまったラハくんが「推しカプが尊い」みたいなこと言ってしんでるオチを入れようか迷いましたがやめました。というわけで部屋の外でラハくんはしんでいます。
ヒカセンとニーズヘッグが、当人(当竜?)たちも知らない間にニャンさんを架け橋にして和解の雰囲気になってたらいいなって思います。ほら、ヒカセンオメガやっつけたし多少はね?
読んでくださった方ありがとうございます!