【漆黒5.5】英雄とガンブレイカーのよもやま話

5.0のLV77クエ「私はここに眠る」と5.5のLV80クエ「戦いと犠牲」「黎明の死闘」のところ
察しのいいサンクレッドが色々と察する話です

 

 トンネルを抜けた瞬間、外の明るさに目がくらみそうになる。けれど、それは少し前までこの空を覆っていた停滞の光ではない。うっすらと青い空、遥か遠くの山の端から姿を表す太陽。朝と夜の巡りが、アム・アレーンにいよいよ戻ってきたのだ。
 大罪喰いを倒した闇の戦士一行は、クリスタリウムへ向かっていた。ナバスアレンにはトロッコで向かったが、帰りは徒歩だ。高所にある線路の上を歩くことに勘付いた瞬間、アルフィノの顔が真っ青になったのを思い出す。今、アルフィノはリーンとお互いに励まし合って、こわごわと線路の上を歩いている。最後尾から、ニニシャはその様子を微笑ましく見守っている。
 たくさんの苦悩があり、迷いがあり、悲しみがあった。それでも、それ以上の奇跡をたくさん見せられて、ニニシャは背中を押されてきた。前を行く仲間たちは大罪喰いを倒した後、しきりにニニシャにありがとうと声をかけたが、礼を言いたいのは彼女も同じことだ。

「……ッ」

 ほんの一瞬鋭い痛みが体の中を通り過ぎ、ニニシャは顔をしかめた。ヤ・シュトラの懸念していた『何か』に近づきつつあるらしい。光の巫女として完全に目覚めたリーンも何か言いたげだったので、落ち着いたら早めに三人で話し合うのがいいだろう。
 光が自分の体の中に溜め込まれている。最初にそれを聞いた時は特に自覚症状はなく、クリスタリウムの居室でアルバートにも「とりあえず寝るしかありませんね」などと言ったものだが、原因がよくわからず、この痛みがいつ襲い来るかわからないとしたら厄介だ。せっかく夜が来るのに、痛みで眠れないようでは困りものだ。

「大丈夫か?」
「平気です。お互いゆっくり休まないといけないですね」
「……ああ、全くだ」

 ニニシャに声をかけたのは、すぐ前方を歩いていたサンクレッドだ。大罪喰いとの激戦もあったが、何より彼はその直前にあのランジート将軍と対決していたのだ。よく見なくても、全身ボロボロで傷だらけ。表情には出さないが、疲労困憊だろう。
 それに、戦いだけではない。ここまでに至るまでの、彼の苦悩。リーンがまだミンフィリアと呼ばれていた頃、彼女に厳しくあたるサンクレッドを見て内心激しく仰天したものだが、今ならどれほどの痛みを抱えてここまで歩いてきたのか、少しくらいならわかるつもりだ。

「まだ言うのは早いかもしれませんが……お疲れ様でした、サンクレッド」
「はは、どうした急に。本当に早いぞ。これからだろ」
「あなたは本当に、強いなと」

 ミンフィリアの――自分を『暁』に招き入れた彼女の、本当の願い事。
 第一世界に来て彼女の顛末を聞き、じわじわと感じていた彼女との真の別れの予感。それはエメトセルクの発言によって決定的なものとなった。――残ることができるのは、本来の光の巫女の人格か、肉体を提供している者の人格か、ふたつにひとつ。そうなった時彼女がどちらを望むかなんて、考えるまでもない。
 過去を視たときに、それでも、とミンフィリアに手を伸ばすサンクレッドの姿が強く脳裏に焼き付きすぎて、ずっと彼女を取り戻す方法を探してあがき続けていたのだとニニシャは思っていた。けれど、あがけども、サンクレッドはもっとずっと前に、覚悟を決めていたのだ。
 自分の願いを、大切な人の願い事に重ねる覚悟を。

「わたしがあなたの立場だったら、同じようにできなかったと……思います」
「……かもな」
「わたしはずっと自分の我儘ばかり通してきましたから」
「違うな」

 サンクレッドがくつくつと笑うので、ニニシャは顔を上げた。こんな風に彼が笑えるようになったことに対する安堵と、彼の意図するところがよくわからない困惑が入り交じる。

「お前なら、自分の望みを叶えるために、もっといい方法を探し出せたさ。現実的じゃなくても、泥臭くても、どんなに這いつくばって、もがいても。なんといっても、あの獅子目石を探し出せたんだからな」

 それはあなたの手柄でもある、と言いたかった。だが、忘れたころに感じる不思議な痛みのせいだろうか、うまく口が動かない。

「だからお前はまっすぐ進めばいい。これまでと同じように」
「……はい」
「ちゃんと前を見ておけよ。でないと、産まれたてのチョコボみたいにしてるアルフィノにぶつかって蹴落としかねないぞ」
「ふふ、そうですね」

 疲れた体で思考しすぎるとよくない。そんな思いを込めた優しい声とあたたかい冗談に、ニニシャの口元からも笑いがこぼれた。

 

 

 グリダニア行きの飛空艇が、少しずつ高度を下げていく。長らくウルダハを活動拠点としていたサンクレッドにとって、森都の空気はいつ吸っても新鮮で心地が良い。
 だが、今はそれをじっくりと味わうことはできない。世界各地に現れた終末の塔、そしてテロフォロイの侵攻。ただ神を喚び下ろすために支配され、意思を失っていく者たち。そこに種族は関係なく、これまで蛮族と呼んでいた者たちや、帝国人すらも命であることを否定され、尊厳を汚されていた。
 パガルザン平原にて敵部隊とルナバハムートを撃破し、アマルジャ族との関係改善の兆しが見えたのは心から喜ばしいことだが、根本的な問題を解決する方法は見つからない。さらに悪いことに、アレンヴァルドが重傷を負い、負傷の内容も伏せられているらしい。
 彼の戦線離脱は大きな痛手だ。超える力を持つ者の離脱が痛いのは当然として、何より彼の友として絆を結んだアルフィノの表情の痛々しさ。毅然と立ってはいるが、どれほど動揺しているか、想像するに余りある。ひと目会うこともかなわず、回復を待つこともできず、石の家に戻るのだ。北部森林、クルザスを経由してモードゥナへ向かう道についてはキャリッジを手配してあるが、歩くことで考えを紛らわすこともできない状況に、歯がゆさは募るばかりだろう。
 状況を切り開く見通しは立たないが、それでも立ち止まることなどしない。自分だけでなく、同じ飛空艇に乗る、暁の仲間たちも皆同じ思いだろう。でなければここまで歩めはしなかった。第八霊災を起こさない未来にたどり着くことなど、できはしなかった。
 飛空艇がランディングに入る。雨の多いグリダニアだが、今は残酷なほど晴れ渡っている。他の仲間たちに追従して飛空艇を降りようとしたところで、サンクレッドはひりついた空気を背後から感じて振り返る。
 そして、息を呑んだ。

 ニニシャがウルダハの方角をじっと見つめている。その後ろ姿から、感じたことのないざわめきが放たれている。
 サンクレッドは思わず、今の今まで気づかなかった自分を恥じた。アレンヴァルドと友情を結んだのはアルフィノだけではない。むしろニニシャの方が前からアレンヴァルドと接していた。暁に入ったばかりの頃、彼女は砂の家に戻るたび、アレンヴァルドと今は亡きア・アバ、オリに真っ先に話しかけていた――その頃のアレンヴァルドはニニシャを雲の上の存在と遠巻きにしていたが。彼女が記憶喪失と知った今ならわかるが、同業者と話すことで知識の集積を試みていたのだろう。強さ、光の加護、上げた功績、そんなものに関係なく、彼女にとって先達は等しく先達だ。その危機に、彼女が心を痛めないわけがない。
 どうしてこんな時ばかり、いつもはくるくると回る口がうまく動かないのだろう。サンクレッドはそう思いつつも、かといってニニシャを放ってはおけず、声をかけようとして、止まった。
 ずかずかと、重たい鎧をものともせず、サンクレッドの隣を通り抜けて早足でニニシャに近寄るエレゼン族の男。隣にたどり着いたその気配に気づいてニニシャが振り向き、顔を上げた。

「……さあ。行こうぜ、相棒」

 その言葉を聞いた瞬間だった。
 振り向いたニニシャの瞳は、決して光を失ってはいなかった。それが、その言葉を耳に入れるや否や、少し見開かれ、金の瞳がたたえる光はさらに輝きを増したのだ。サンクレッドの肌を刺していたひりつきは瞬時に消え失せ、彼女は少しの間の後、決意に満ちた表情で、はい、と頷いた。

(――そうか、ここにいたのか)

 少し前、サンクレッドは密かにニニシャに尋ねていた。蒼の竜騎士とはどのような男かと。イシュガルドでのニニシャとアルフィノの活躍は当然把握していたし、アルフィノからも彼の話は聞いた。だが情報は多ければ多いほどいい。クルルやタタルの口ぶりから、これから手を取り合う可能性が高い人物の人となりを、ニニシャに直接聞いておこうと思ったのだ。ニニシャはその問いに平然と「帝国のカノン砲を一人で壊せる人です」と突拍子もない事を言い放ち、サンクレッドは頭を抱えながら「強いのはわかったが、そうじゃなくてな、人となりを聞かせてほしいんだ。お前の主観を」と、なんとか言葉を紡いだ。
 その結果、ニニシャはしばらく考えた末、言葉で説明できるほど人となりを知っているわけではないのですが、と前置きした上で「わたしにとっては自慢の兄弟子です」と答えたのだった。ニニシャが時間が空いた時に槍の鍛錬をしていることや、二人に槍を教えた師が同じであることは知っていた。パガルザン平原での共闘で、なるほどこの兄弟子にしてあの妹弟子ありか、とその槍さばきに舌を巻いた。ニニシャがその強さに胸を張るのも頷ける、と感じた。
 けれど、それだけではなかったと腑に落ちた。

 もっと時を遡り、夜を取り戻したアム・アレーン、クリスタリウムへの帰路でニニシャと言葉を交わしたときのことだ。自分は我儘ばかり通してきたと、サンクレッドのようにはできないだろうと、彼女らしくない、気まずい表情で言ったニニシャを見て思ったのだ。
 ああ、こいつにもいるんだな、自分の命と魂すべてを引き換えにしたってかまわない、尊い誰かが――と。
 その答えを目の当たりにして、サンクレッドは口角が上がるのと同時に、少しだけ胸が締め付けられるのを感じた。ニニシャの瞳から伝わってくる強い信念は慣れたものだが、これほどまでの強い感情を初めて味わったからだ。その気配は微かで、気づけるのはサンクレッドと、あとは恐らくヤ・シュトラくらいのものだろう。彼女は、その小さな体の中に、友情、尊敬、信頼、親愛などが混じり合って膨らんだ、大きな感情を秘めている。それは小さな彼女によく似合う、風船の束のようだ。そして、彼女はその風船を乗りこなし、自在に空を飛んでいる。
 俺もそうできればよかったんだがな。そう思ったが、サンクレッドの心にあるのは悔恨ではなく、清々しい思いだった。

「……こいつは、護るものが増えるな」
「どうかしましたか? サンクレッド」
「なんでもない。行こう」

 密かな決意をしたサンクレッドが後日、ニニシャの言った「帝国のカノン砲」のくだりが何一つ誇張のない事実であったことを知り、頭痛に悩まされるのはまた別の話である。

 

 

サンクレッドが二人の仲を気にするきっかけになる話を書きたかったので書きました。 紅蓮のカストルムアバニアの単騎特攻、結局何が起こったのかはプレイヤーにしか明かされていませんが、自機ヒカセンだったら、4.5のギムリトでニャンさんが助け出してくれたと知った時に、じゃあカノン砲壊したのもあの人だったんだろうな~って勘付いてたらいいなと思います。
読んでくださった方ありがとうございます!

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