LV52クエ「襲いくるグナース族」のところ
ケンカするニャンさんとイゼルちゃんを見ている自機の話です
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既に崩れてしまった、竜を模した古き石像。一つの遺跡を前にして、男女が目の前で言い争っている。女は『この遺跡は竜と人が友として暮らしていた時代のもの』と言い、男は『異端者が作った建造物と教えられた』と憎々しげに言い捨てた。
クルザス西部高地を抜け、高地ドラヴァニアにたどり着いた光の戦士一行は、かつて人と愛し合った竜、フレースヴェルグと対話するため、霊峰ソーム・アルへの道を歩んでいた。
少し前までは雪と氷に閉ざされた世界にいたというのに、高地ドラヴァニアでは雪は見えない。川はせせらぎ、大きな木々が天高くへと伸び続けている。厳しい寒さは過ぎ去ったが、この地は風が強く、油断していると体のバランスを崩しそうな突風が吹き付ける。寒さとドラゴン族の脅威がない分を差し引いても、この霊峰から吹き下ろす風が支配する土地も簡単に暮らせる環境ではあるまい。
閑話休題、目の前で言い争う二人を、ニニシャは何も言わず見つめていた。
自分と同じ過去を視る力を持つ、ハイデリンの加護を授かった女性。過去視は自分の意志とは関係なく引き起こされるものだから、彼女も偶然、人が竜を裏切ったところを視てしまったのだろう。竜は忌むべき敵であると教わってきた幼い頃からの常識。それが自分だけ崩れてしまった時の孤独感、焦燥感はニニシャにはとても想像できない。今も彼女はそれを抱えて、世界を変えたいともがいている。
自分と同じ師に槍を学んだ、蒼の竜騎士。鋭い視線で竜の棲まう方角を睨みつけるその心の中に、竜に家族を奪われた苦しみと悲しみと燃え上がる怒りがあることをニニシャは知っている。ほかでもない、彼の育ての親でもある師にそう教わったからだ。竜のことを考えるたび、戦慣れした冷静さの中から猛烈な怒りが迸る、そんな感情の中で彼は生きている。
「ニニシャ、君も何か言ってくれよ」
突然アルフィノに声掛けを頼まれてしまい、ニニシャは目を丸くして口を開く、が、言葉は出てこない。当然だ。二人が積み重ねてきた強い思いに比べると、自分に語れることなど、風で飛んでいってしまう枯葉のようなものだろう。
アルフィノに続いて、二人もニニシャの方を見た。
――そんな可能性があったなら、人と蛮族は、争ってこなかったわ。
――でも、今度は……ッ!
シルフ族によるラムウ召喚の際、石の家で苦しげに言葉を吐き出したヤ・シュトラの姿を思い出した。ニニシャにとって忘れられない光景のひとつだ。思えば彼女はタイタン召喚のときも、人が蛮族のテリトリーを侵しているのではないかと言葉にしていた。きっと長い間、人が人の事情で蛮族、蛮神を倒すことを正義としていることに、疑問を感じ、苦しんでいたのだろう。エオルゼアの救済を掲げる暁の賢人たちが、異なる意見をぶつけ合い、場の空気が変わり、ミンフィリアが仲裁する。そんな場面を、それまでニニシャは一度も見たことがなかった。だから、すっかり圧倒され、あの場では言葉を失うしかなかった。
「……同じ目的で集った人同士が争ったときに、なんと言えばわからないので……そんな時、わたしは無力だなと思います」
蛮神を狩り、帝国を退けても、暁があわや仲間割れとなる……もっとも、彼らは賢い人々だ、きっとミンフィリアが仲裁せずとも自然と収まるところに収まっただろう、と今ならば思えるが。ともかく、あの時ニニシャは自分がいかに無力かを思い知ったのだった。
そんな思いがつい口からぽろりと出てしまったことに、はたと気づいたときには場がしんと静まり返っていた。三人とも、驚いた様子でニニシャを見ている。特にアルフィノなどは、ニニシャからこんな弱気とも言える発言が出るとは思っていなかったのだろう、こぼれんばかりに目を見開いている。
フォローを依頼されたのに、何も応えていないのでは冒険者失格だ。ニニシャは息を吸って、もう一度口を開いた。
「とにかく、今、わたしたちの目的は同じはずです。それに向かって、粛々と進むのが良いのではないかと」
「そう、我々はイシュガルドへの再攻撃の阻止という、共通の目的を成すためにも、今は主義を捨てるべきだ」
アルフィノが自分の言葉を拾って話しだしたので、ニニシャは安心した。最低限ではあるが、彼の依頼には応えることができたらしい。光の戦士一行は再び歩き出した。
ウィロームリバーにかかる小さな橋を渡り終えた瞬間、風が強くなったかと思うと、瞬時に空が土色に染まった。強風で砂塵が舞い上がったのだ。ニニシャは水色のパイロットキャップについているゴーグルを即座に下ろす。ポケットから布の切れ端を取り出して口に当て、既に噎せ返っているアルフィノにもハンカチを差し出した。西方の『不浄の三塔』なるドラゴン族の住処も、南方にあるグナース族の住処も、ほとんど見えなくなった。
この視界ではできることもできない。ニニシャ一人ならまだしも、アルフィノを巻き込んで強行軍はリスクが高すぎる。何も言わずとも、先程まで争っていた二人の意見も一致したようで、一行はルートを東寄りに変え、風を避けることができる岩壁の側でその日は野営となった。陽が沈む頃には風が弱まり、空から降ってくる砂も僅かになったが、かわりに周囲は濃い霧で包まれてしまった。
無理に進んでいたらどうなっていただろう、と自分の悪運に感謝をしながら、ニニシャは仕留めたロフタンを手早くさばく。食べられない部分を川に流し、手持ちの香草で血の臭いを消してから急いで可食部を持ち帰る。黒衣森に住んでいた頃は仕留めてすぐにノフィカ神と精霊に感謝の祈りを捧げていたものだが、野生動物、ドラゴン族、グナース族と、脅威の多いこの地ではそんな暇もない。
野営地に戻ると、焚き火を起こそうと奮闘するアルフィノとそれを応援するイゼルの姿が目に入り、ほんの少し口角が上がったのを感じた。どんな感情が沸き起こったか今のニニシャにはよくわからないが、悪いことではないので大丈夫だ、と思う。
「……悪いな。ニニシャ」
「……? 何がですか」
そんなことを考えていたら、突如、荷ほどき中のエスティニアンに話しかけられた。何か、謝られるようなことがあっただろうか。全く覚えがない。あるいは、色々なことがありすぎて、自分の記憶から色々なものがこぼれ落ちているのかもしれない。
「人の仲裁は苦手だろうに」
ニニシャは得心し、こくりと頷いた。図星であるし、否定する理由もない。ただ、なぜわざわざそんなことを言ったのか気になって、その顔を見上げ、なんとなく察した。
たぶん、彼も同じなのだ。戦うことにはまっすぐ挑むことができる。乱暴に言ってしまえば、武器を振るえばいいだけだ。だが、争いごとを仲裁するために介入するのはもっと、ずっと困難だ。そういうことを進んで行うアルフィノや、竜と対話したというイゼル。それに、酒場で人と交流を持ち、際限なく情報を集めてくるタタル。彼らの方が、よほど自分よりもすごいと、素直に思う。そして、今は行方の知れない暁の仲間たちも――それでも。
「前に同じようなことがあった時は、何も言えなかったので。声を出すことができたことを、進歩だと考えようと思います」
「そうか」
「焚き火、ちゃんと起こせたみたいです。アルフィノ」
「……そうだな」
お互い荷物を片付けて、揃って焚き火に向かう。
炎の明かりとぱちぱちと薪がはぜる音があれば、たぶん、この夜はいさかいは起きないだろう。
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自機は戦闘特化で言葉が下手なので、アルフィノくんに話を振られて内心えっどうしよう状態になる話が書きたくて書きました。ニャンさんがまだヒカセンを相棒呼びしてなくて、名前で呼んでる頃からしか得られない栄養素があります。
読んでくださった方ありがとうございます!