LV50クエ「邪竜の咆哮」のところ
イシュガルド防衛戦前、キャンプ・ドラゴンヘッドでメリクさんニャンさんと顔合わせした直後の話です
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クルザスの、イシュガルドの危機が迫っていた。曇天を漆黒の竜が埋め尽くし、太陽は遠い。――そんな空すらも見えない、石に閉ざされたキャンプ・ドラゴンヘッドの応接室。神殿騎士団総長は友である竜騎士を伴い、クリスタルブレイブ、ならびに『暁』に救援要請を行った。やれるべきことは全てやった。後は戦神に祈りを捧げるほかないだろう。
自らの拠点に情報共有するため、応接室を出ていこうとするエレゼン族の少年と、エオルゼアの英雄と呼ばれるララフェル族の少女、いや、女性だろうか。ララフェル族はいまひとつ年齢が掴めない。
扉をくぐる一歩前で、真紅の帽子を被った彼女がぴたりと足を止めた。そして、数秒の後、振り返って戻ってくる。
彼女が歴戦の猛者であることはもちろん知っている、だからこそここに呼んだのだ。彼女の体躯に合わせて作られた弓も、彼女が背負うと大きく見える。それでも小さな体でとことこ、と足音を立てて歩み寄ってくるのを見ると、魔法人形を眺めているような、落ち着かない心持ちになりそうだ。
何か言い損ねたことでもあるだろうか。彼女に話しかけようとしたが、英雄は総長ではなく竜騎士の隣に歩み寄り、その顔を見上げた。そして、小さいがよく通る声で、淡々とこう告げた。
「身体はもう大丈夫なんですね」
しばしの時の後、友が低い声でああ、と答えると、英雄は「良かったです」と変わらぬ調子で言った。彼女はいつも無表情で、笑顔も怒り顔もなかなか見せないが、その声色にわずかに安堵が滲んでいたように思える。と、そんな英雄の様子に思いを馳せている間に、彼女はぺこりと軽く頭を下げるとくるりと踵を返し、応接室を出て行ってしまった。静寂が広がる。
「知り合いか?」
そう声をかけると、漆黒の鎧に全身を包んだ竜騎士は煩わしそうに息を吐いてから、少し間を開けて答える。
「……アルベリクの所で槍を学んだ娘だ」
「アルベリク卿の……では妹弟子ということか!」
「そういうのじゃない」
先程よりも大きな溜息が出た。
暁と三国を少しでも協力体制に近づけるために、イシュガルド側が持つ大きな戦力を提示する。そのために彼を連れてきたのだが、既にかの英雄と接点があったらしい。
神殿騎士団総長は、正直に言って非常に安堵した。まず、『イシュガルド』の態度に露骨に不快感を示したクリスタルブレイブ総帥に対して、英雄が自分たちへ向けた視線は比較的友好的なものだった。そして、滅多に他者に心を許さない親友も、彼女に敵意を向けていなかった。総長にとってはそれが何よりの収穫であった。友が即座に牙を剥かないということが、かの英雄がいかなる存在かを言葉より如実に語るのだ。
「随分とご機嫌だな、総長殿。さっきの口説き文句がそれほど効いたか?」
「く、口説……?」
からかい混じりに妙なことを言われ、どういう意味かと問いかけようとしたが、友は自分で考えろと言わんばかりにふいとそっぽを向いてしまった。
三国の危機に何もしなかった自国が、都合よく三国に助けを求めること。あまりに身勝手な要請である。総長は英雄に、軽蔑しても構わない、と告げたのだが、それに対して、彼女は不思議そうに首をかしげて、こう返した。
「……? よくわかりません。これまでのことは、最近総長に就任したあなたには手が届かなかったところなのでは?」
その言葉に神殿騎士団総長として、一人の神殿騎士として、一人のイシュガルドの民として、大きな感銘を受けたことを自覚するのは、しばらく後のことになる。
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この頃の自機はまだよちよち故に、あちらこちらでマジレス蛮族をかましていました。
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